全国各地、いろんな場所に住んだが切っても切り離せないのが星空だった。
春夏秋冬、温帯、亜寒帯、亜熱帯とそれぞれの季節や気候帯で見え方が同じ星空であっても大きく異なることに気付いた。
実家のある地元ではそこまで星空は見えなかったが、それでもオリオン座やすばるなど2等星程度まではよく見えたのでBUMP OF CHICKENの名曲ではないが天体望遠鏡を持ち出しては夜空で煌々と輝く木星や土星を眺めていたものである。木星の縞模様や4つのガリレオ衛星(点にしか見えないが)、土星の輪が見えるほど拡大するとジェット機の 1.5倍くらいという意外と高速な地球の自転のために一瞬で視界からいなくなってしまうのでとにかく追跡が大変だった記憶がある。
星空に関して強く記憶に残っているのは、大学を卒業して初めて実家を出て住んだ北海道の星空だ。
北海道も特に内陸の地域は、夏場は空気が乾燥していてかつ大気が荒れておらず安定しているため、実に綺麗に見えるのである。
星がよく見えそうな小笠原諸島は、確かに日本一夜空が暗い場所として環境省のお墨付きをもらっていたこともあり星もよく見えるのだが、いかんせん湿度が高くて心なしか霞んでいるように見えた記憶があり、夜空が暗いからと言って綺麗にくっきりと見えるわけでもない。
宇宙が好きかと問われると、そうでもない。実際、ディスカバリーチャンネルの宇宙に関する番組で、海外の研究者が楽しそうに宇宙の魅力を語っていても何が面白いのかさっぱりわからない。
それでもあの満天の星空を見るとすっかり魅了されてしまうのだから不思議だ。
北海道の会社にいた時、わりと遅くまで作業をしていて外に出て満点の星空を見た時に思わず息を呑んだ。何せ周りは見渡す限り田んぼしかない上に、星空を消すビル群の明かりは100キロも先である。今も昔も星の観察には絶好のロケーションと言えるだろう。
放射冷却のせいで8月の末頃だったがかなり寒かった。おそらく10℃あるかないかで吐く息が白かった記憶がある。慌てて作業着の綿入りのジャケットを探してきて着込んで、真夏なのに北海道は凍死しそうなくらい寒く、この先の季節はいったいどうなるのだろうかと不安になりながらもずっと星空を眺めていた。
Wの形が特徴的なカシオペア座付近に薄雲のようなものが見えるが、流れる気配が無いので雲でないとすぐにわかる。これこそが天の川であり、我々の住む太陽系はこの天の川銀河に属すると考えるとどこか感慨深いものがこみ上げてくる。
大小無数の星はギラギラと常に瞬いていて、今にも動かんとする勢いさえ感じる。そう思っていると星座を構成する星の1つがスーッと動き出した。音も無く速さは飛行機のそれより圧倒的に速く、大空に爆音を響かせる戦闘機でもない。これは人工衛星である。生まれて初めて夜空を駆け抜ける人工衛星というものを見たのは実はこれが初めてだった。
ちなみに同じ会社から天の川を見上げつつ自転車を漕いで帰路を急いでいると、スーッと音もなく流れていった時があったがこれが2回めであった。自転車を漕ぎながら流れる人工衛星と天の川が見えたのだから夏の北海道の星空は侮れない。
風景写真をやっていたので写真に撮ってやろうと思い立ち撮ってみるのだが、撮れた写真を見るとどこかで見たような写真ばかりで全く面白くない。結局、星空に関しては撮ることを辞めてしまったが、正解だったと思う。もちろん星景写真が好きな人もいるので否定はしないが、私は静かに眺める方を選んだ。
この星空は都会には存在しないかというと、もちろんそうではない。
見えていないだけで、そこには確かに存在するのだ。
今住んでいるところは星が見えない。それも全くと言っていいほど見えない。しかし、この空には昔北海道で見たような、あの溢れんばかりの満天の星空が確かに存在するのだと時に思いを馳せたい。
(おわり)